JOURNAL

【Interview】Masato Komai Vol.2 美濃焼産地の若い才能を育む人、ishoken 駒井正人さん 後編

古い物語から当時のうつわに想いを馳せる、駒井さんの「うつわの旅」

前編に続き、多治見市陶磁器意匠研究所駒井正人さんにお話を伺いました。

mont et plume (以下mp)  今回、「旅するpottery」というテーマで、美濃地方で生まれたうつわが、さまざまな場所や人のもとへ旅に出ています。スタート地点である美濃の魅力をぜひ教えていただきたいです。

Masato Komai (以下K) 個人的な感覚でいうと、一番の魅力は「人」だと思います。ここで活動している人、産地の人、地元の人がいて、この地域が成り立っているので、卒業生をはじめ陶芸に関わる色々な人がいるからこそ美濃が魅力的なのだと感じています。

mp) いいですね。同じように美濃の魅力を「人」だと答える作家さんも多くいらっしゃいました。

K) 広い意味での、みんなの仲間意識というのでしょうか。例えば東京で出会った知らない作家さんから「美濃で作陶しています」と聞くと、同じ産地意識ですぐ気持ちが近くなります。それは作家さんだけでなく、それに関わる方々の顔が浮かぶからだと思うんです。そういう人たちがいることが産地の魅力の1つかなと思っています。みんな美濃が好きなので、なおさらそう感じるのだと思います。

mp) ご自身の旅に関するエピソードがあれば、教えてください。

K) 基本的にインドアなので・・・(笑)。旅という言葉を自分なりに解釈してもよいでしょうか。本が好きなので、本を読んで旅をするという感じがあります。本は場所も時代も自由に感じことができるので。個人的には司馬遼太郎とか歴史ものが好きです。

mp) いいですね、時間の旅というか。

K) その物語の中で出てくるような器なんかも妄想してみたり。

mp) うつわが出てくる印象的なシーンなどがあれば、聞いてみたいです。

K) 例えば、江戸の町人たちの食事のシーンでは、料理が盛られている器はどんな感じかなとか想像しています。身近な器だと自分の住んでいる高田町が源蔵徳利(げんぞうとっくり)の産地で、よく時代劇ででてくるような屋号なんかも書いてある徳利です。このシーンはきっと当時の凄腕のロクロ職人が挽き上げた徳利が使われているんだろうなとか。

mp) うつわを見て話が思い浮かぶというのはロマンがありますね。

K) 落語なんかで「酒買ってこい」というシーンはあの徳利を持って行ったのだろうと想像します。

ishoken内で展示されていた矢次美穂さん(職員)の作品

今の時代に感じる「焼き物づくり」、課題と希望

mp) 産地として人材を育み、これからもこの地で素晴らしい焼き物が生まれて欲しいと思っています。一方で、地元の土が使えなくなってきた・・・と作家さんから伺ったことがあります。持続可能性についてどのようにお考えですか?

K) 美濃焼産地でも当然多くの課題があり、土が掘れないというのはその一つです。美濃でも2、30年前には鉱山が何十ヶ所もありましたが、今は数件しか稼働していません。採掘には莫大な費用がかかるため、産業規模の縮小により土があっても掘れなくなったこと、後継者がいないこと、量産のうつわが海外生産に切りかわったことなど、これらをどう乗り越えていくかが課題です。私の住む地区も民芸調の陶器をつくる地区なのですが、地元で取れる粘土の採掘が大きな問題となっています。原料がとれないことで、文化が途絶えてしまうのではないかという危機感があります。

mp) 文化をいかに残していくのか、この課題をどうやって乗り越えていくのかは業界全体の課題なのかもしれませんね。

mp) 最近、学生だけでなく、うつわを作ってみたいという大人の声も聞きます。

K) 長い歴史の中で、人は器や道具などやきものとずっと付き合ってきました。だからほっとする部分が人間のなかに刷り込まれてるんじゃないでしょうか。土を触ることで自分に内包されている感覚的なものを発見したり。デジタルな時代だからこそ、やきものの触覚や視覚も含めた物質感、ものの存在感みたいなものが大事だと再評価されているのではないかと思います。

美濃から才能ある作家が生まれ、うつわが生まれる背景には、その才能や技術を育む機関と人、コミュニティがある。これがこの地の産地としての強さなのではないかと感じます。駒井さんや花山さんのように若い方が産地の魅力や才能を育む役割を果たしていらっしゃるということを知ることができ、これからの美濃がますます楽しみになり、力をもらいました。

(取材は2020年12月に行いました)

<profile>
駒井正人 Masato Komai
1980 山梨県出身
2003 早稲田大学商学部 卒業
2005 多治見市陶磁器意匠研究所 修了
現在 多治見市陶磁器意匠研究所 職員
https://www.city.tajimi.lg.jp/ishoken/index.html

聞き手:mont et plume
Writing : Sayaka Yamamoto
Photo: Ikumi Hane