JOURNAL

【Interview】Arata Osumi 陶芸家・大隅新さん

おおらかなフォルムにのびのびとした絵付け。そんな作風がが魅力的だなと思い、今回のイベント(2023年8月)にむけて岐阜県八百津町で作陶をされる大隅新さんにご連絡をさせていただいたところ、POP UP会場となるParkletの写真を見て「オープンサンドをイメージして考えてみます」とおっしゃってくださりました。インタビューを経て、届いた作品を眼の前に、気負わず自然体のお人柄や生き方が表れているなと、合点がいきました。

mont_et_plume 以下( m ) 大隅さんは東京生まれでいらっしゃるそうですね。現在の場所で作陶されるまでの経緯を教えていただけますか?

Arata Osumi 以下 ( A )  大学生時代に就職活動で、将来本当にやりたいことを考えたのですが、会社で働くのとは違う気がしました。もともと美術や物作りが好きで美大で学んでみようと勉強する中で陶芸に出会い、東京から多治見に移り意匠研究所で学びぶことにしました。当初は学校に入れば作家になれると思っていたのですが学校に通っただけで作家になれるわけではないと察し、卒業後は土岐市のある窯元で働かせていただきながら仕事後や休みの日に作家活動を行う生活を5年ほど続けました。仕事と作品づくりのウエイトが逆転した時に退職させていただいたのですが、その窯元にはその際も本当にお世話になりました。ご厚意で窯を使わせていただいたり暖かいサポートをしていただいたりと、縦横の繋がりや若い人を受け入れてくれる土壌がこの地域のいいところだと思います。岐阜に来て6年ほど多治見にいたのですがだんだん手狭になってきて、どこか広いところへ移ろうと拠点を探していたら、現在の八百津町の山の中へたどりつきました。

m ) 八百津町に引越されて、作品やご自身に変化は感じられますか?

A ) 自分が山に越してきて、「陶芸家は仕方なく山奥にいるんだな」と思いました(笑)もうちょっと便利なところに住めるともちろんいいのですが、作品を作って、窯を焚くので現実的ではありません(最近はガス窯と電気窯と薪窯を使用)。でも自然がいっぱいで、気持ちよく過ごすことができるのがいいところですね。会社で働いていた時は頭も体も仕事に使っていたので、自分の制作では定番品を繰り返し作る事が多くなっていたのですが、八百津町に越してきて自分の作品作り一本になってからは、やってみたかったことを色々やってみる余裕がうまれました。自然の中にいることで今までは感じ取れていなかったことに気がつくようになったんです。これまではただの雨だと気にかけていなかったことが、広い田んぼに雨がシトシトと降っている様がすごく綺麗だな、とか、山の花が綺麗だな、とか。「自分が見てきたこと」から作品が生まれるので、普通に日々暮らしている中でいいなと思ったことが作品作りに良い影響を与えてくれているのかなと思っています。

m ) 今回制作していただいた作品について、教えていただけますでしょうか。

A ) これ(写真1枚目)は、いただいた写真(Parkletのオープンサンドの写真を事前にお送りしていました)で丸いパンが斜めにカットされていたので、オープンサンドからインスピレーションを受けました。粘土を引っ掻いて描いた上に白い泥をかけていて、マットに仕上げています。これ(写真2枚目)は田んぼからの着想ですね。実は、ここに越してきたら家に田んぼがついてきたんですよ。大家さんには田んぼの面倒は見てもらえると聞いていたのですが、越してみたら「教えてあげるからやってみたら」と(笑)。まさか自分が田んぼを作れると思っていなかったのですが、やってみると大変ですが楽しい。新しい発見があって、陶芸にいい意味で還元されている気がします。広さでいうと2反(1トンくらいの収穫量!)ほどあり、作ったお米は地域の方に食べてもらっています。

m ) 今回、瑠璃釉の作品も制作していただきました。昔ながらの色ですが洗練された仕上がりで美しいです。釉薬についてはどのようにお考えですか?

A ) シンプルなものが好きなので、釉薬に関してもシンプルな考え方です。今回の作品も木の灰と長石を使い、透明釉を基調にしています。意匠研究所を卒業したての頃は視野が狭くて「自分にとって大切にしたいこと」へのこだわりが強く、試行錯誤して何度も調合していましたが、今はベースができてある程度狙いを持つものの、結果はこうなったんだなあ、と逆に良い偶然を面白がって受け入れられるようになりました。 同じ釉薬によっても色が変わったりツルッとしたりマットになったり、焼きの変化がすごく大事だと考えています。昔は粉引技法が好きで熱心に取り組んでいましたが、偶然事業をたたまれる窯元さんからコバルトという釉薬の原料を譲り受けたことが、瑠璃釉を始めるきっかけになりました。高価なものなので今まで使っていなかったのですが、この機会にやってみようかなと。コバルトがなくなってくるとすごく高くてその時は始めたのを後悔しましたが(笑)織部の緑の原料は銅で、同じように銅を譲り受けたので織部を作り始めました。瑠璃釉も織部もシンプルだからこそかなり微調整をしましたね。

m ) 田んぼも釉薬も、巡ってきたものを受け入れて作品に生かされていますね。今後の目標や展望などは考えていらっしゃいますか?

A ) 大きな展望という大それたものよりは、ナチュラルに進んでいけたらいいなと思います。こちらに越してきて、いろんな人に手伝ってもらった窯が完成して2年経ち、これからもっともっとこの窯を使って作品を作っていきたいと思っています。自然豊かな環境にいて、影響を受けて作るのももちろんですし、人との繋がりがあって、自然と出てくるのかなと。今回のようにお話をいただいて、少し難しそうだなと思うことにチャレンジできるきっかけみたいなことを続けていったら面白いことができたら良いなと。

m ) 大隅さんが大切にされている考え方を教えてください。

A ) 真剣に作っていますが、気負いすぎないことでしょうか。以前、大先輩の作家さんに言われたことが心に残っていて、「怖い顔してろくろひいてたらあかんよ、口笛吹いてつくってるくらいやないと」と。助手席にいる時に怖い顔して運転している人の隣だと安心できないでしょうと。なるほどなと思って、それは心掛けたいなと思っています。あとは、見た事や感じたことを、あまり捻りすぎずシンプルに表現したいな、というのはありますね。自分ではストレートに表現しているつもりでも、見たことや経験したことが自分のフィルターを通じることで結果的には良い感じにぼやけて見える。話は変わりますが、最近消防団に入っていて。まさか自分が消防団に入るとは思っていなかったのですが、こういう仕事だと火事もあるかもしれないので… 先日合同訓練があって参加してみたら、火を消したりするのではなく、列を組んで行進したり、ラッパ隊が登場したり、ちょっとおもしろくなってきて。もしかしたらまた作品に影響があるかもしれないかもな、と、何でも捉え様かなと思っています。

m ) いつかラッパの柄が登場するかもしれませんね(笑)なんでも面白がってみられる素直な方なのだなと思います。巡ってきたものを受け入れる風通しの良さ、自然体の。もしかすると、大隅さんのその生き方や作風は、都会の人にとっても、すごく貴重に感じられるかもしれません。

Profile(プロフィール)
大隅 新  ( Arata Osumi )  陶芸家
1988年 東京生まれ
2014年 多治見市陶磁器意匠研究所 卒業
卒業後、土岐市の窯元に5年間勤務
現在、岐阜県の八百津町にて製作

聞き手:mont_et_plume
Writing: Sayaka YAMAMOTO
Photo : Arata Osumi

mont_et_plume POP UP event vol.3
“exchange” at PARKLET

■会期 
8月11日(金)18:00~ 21:00 Shop & Apéro
8月12日(土)8:30 ~ 21:00 Shop & Apéro
8月13日(日)8:30 ~ 17:00 Shop
※アペロ、ショップの時間は変更の可能性がございます。
イベント直近の情報をご参照ください。

■場所
PARKLET
〒103-0024 東京都中央区日本橋小舟町14−7 ソイル日本橋 1階
https://parkletbakery.com/ja