mont et plume (以下mp):今回のプロジェクトでは、旅に出ていろいろな表情を見せてくれそうなので白色の炭化焼成のうつわを制作していただくことに決まりました。このうつわについて教えてください。
Midori Uchida(以下M) : 形は曲線で繋がったような。あんまり「皿」然としているものではなく、「もの」感があるようにしたいと考えています。もちろんお皿として使うことを意識して作ってはいますが、「もの」として最後までちゃんと作り込む創作を目指しています。例えば横から見たときに高台が綺麗なラインで繋がっているとか、縁まですうっと上がっているとか、普通に食器を作っているという感覚よりは、オブジェのような感覚でかなり繊細に作りたいと思っています。うつわを作るときと、オブジェを作るときと、自分の姿勢にそこまで違いはないんです。どちらも同じように最後まで丁寧に向き合いたいと思っています。
mp:確かに、この打田さんの作品は、繊細な輪郭やテクスチャーも魅力です。工程を拝見させていただきましたが、何工程も経て、作品として仕上がるまでに何日間もかかる。 そう伺うと、一枚がかなり貴重なお皿だと改めて気がつきます。時間も労力もかなりかかっていて熱量を感じる。今回のプロジェクトでは白い器を作っていただきますが、色についても教えてください。
M:焼き色は、柔らかい、綺麗な色が出たらいいなと思っています。特に白・オレンジは籾殻の量で変化する繊細な色合いで、個体差があるので焼いてみないとわからないところもあります。でも、いい色ができました。
mp: 土についてこだわりはありますか?
M:今回のうつわは焼き締めなので、最低限気持ちよく使えるようにしたいと思っています。気持ちよくないものというのは、水を吸ってしまったり、かびが生えたり、ということです。釉薬を塗るという方法もありますが、このうつわに関しては、焼締の微妙な色の変化を出したかったので釉薬を塗らずに、自分が焼いている温度に合わせて、もう少し焼き締まる土を使おうと試行錯誤しました。
mp: 温度と土の組み合わせとで仕上がりが変わるというのは、科学の実験のようですね。
M:人によっては素材が好きでいろんな土をそれに合わせて焼いてみるという方法もありますが、私はある程度時間をかけて、腑に落ちてからじゃないと作品として出せないタイプなので、使う種類は少ない方だと思います。土は美濃の土屋さんに相談して紹介してもらったりします。
mp : 打田さんの中で全て納得してきた結果が積み重なって形になっているので、ひとつひとつに作品としての深みを感じます。
mp:この白いお皿はどのように生まれたのですか?エピソードがあれば教えてください。
M:楽焼では焼ける作品のサイズに制限があり大きいものが作れませんでした。大きい作品も作りたかったので、楽焼意外に何か良い方法はないかなぁと思い始めた頃、余っていた作品を籾殻に埋めて焼いてみたら偶然できました。適当にやってみたら、驚くほど綺麗な色になって、「これ、イメージにめっちゃ近い」と思って。自分で練り込みをしていた時に描いていたイメージに最も近くて、より景色みたいな感じで。これは!と思って、試行錯誤して炭化焼成で大きい作品を作り始めました。その後食器として使ううつわにも落とし込めるよう土を変えたりいろいろ研究しました。
mp: こちらも偶然から生まれたんですね!今みたいに、自分の中で作風が変わったなというターニングポイントはありますか?
M:どの発見も、「一歩進化した」という感覚です。新しいものを発見したときは、何かが拓いたように感じて、ワクワクします。でも全部繋がっていると思うので、ぶつ切りじゃなくて、ずーっと繋がっているというイメージです。
mp:今回のプロジェクトで、打田さんのうつわが旅に出ます。旅はお好きですか?
M:好きなのですが、今は基本的に個展で行く場所になってしまっていて・・。以前、展示のために行った台湾は特に好きで、その後何度も旅行に行きました。食べ物を楽しんだり、焼き物の街に行ったり、窯元で茶器を買ったり。子供産まれてからは旅になかなか行けていないので、うつわの旅は興味があります。いつも作品を買ってくださった後のことがあんまりわからないで、プロジェクトを通してそれを見るのが楽しみです。どんな風に使ってもらえるのかな、と。
mp:私たちも、打田さんのうつわがどんな風に使ってもらえるのか、楽しみです!
【Interview】Midori Uchida Vol.1 陶芸家・打田翠さん 前編
【Interview】Midori Uchida Vol.2 陶芸家・打田翠さん 後編
打田 翠 Midori Uchida
大阪芸術大学工芸学科陶芸コース卒業
岐阜県多治見市陶磁器意匠研究所 修了
現在、岐阜県瑞浪市にアトリエを構え作陶