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【people / interview 】Migiwa Akisada (Migiwa flower オーナー)

その時に一番かがやく季節の花を扱い、空間に寄り添う花しつらいを提案するmigiwa flower。パリで修行後、現在フラワーレッスンや花屋の運営、空間装飾・演出デザイン、オリジナルアイテムの開発など多岐にわたって活躍されているオーナーの美際(みぎわ)さんに、麻布十番のアトリエにて、お話を伺いました。

パリで影響を受けた、人とものとの関わり方

mont et plume (以下mp) お花というカテゴリを超えて、色々なジャンルの方と一緒にものづくりをされていますね。

Migiwa Akisada(以下M) パッションや愛のある人と一緒に何かをしたいと思って、自然とスタートしました。

mp) お店で実際に美際さんのお話を伺うと、そのものづくりに携わられた方がどんな方なのか、どう素晴らしいのか、と熱愛情たっぷりに話してくださったことが印象的でした。そのものの先にいる方達に会ってみたいな、という気持ちになりました。

M) 工程ごとに作ってくれている人がいることを知って欲しいと思うんです。自分が接点の一つになることで、作り手の人たちが新しい機会を得られたり、新しい世代やジャンルの違うところに届けられるかもしれない。会社員時代に広告営業をしていたのですが、自分が選んでいないものを売るのって大変なことだなと思いました。今、自分がようやく選べる立場になったからこそ、「誰がつくった」のか、「なぜ素晴らしいのか」も伝えていきたいと思っています。

mp) 美際さんが今そう考える背景はどこから生まれているのでしょうか?

M) パリで同時期を過ごした人たちの影響は大きいかもしれません。 パリには、「何かがとてつもなく好きで突き詰めている人達」が集まっていました。彼らとの対話の中で、自身が考えるきっかけをたくさん得たと思っていて、今、自分がお店やアトリエを構えてアクションできる立場になった時に、そうやって前を走ってくれている人たちの背中が指針となっているような気がします。

mp) お花の修行以外にも、人との関わりの中で影響を受けて来られたのですね。

M) パリで過ごしたのが、ちょうど日本人シェフたちがミシュランの星を獲得するなど活躍しはじめた時代でした。彼らのお店に装花をしたり交流をする中で、ものごととの向き合い方に影響を受けました。特にあるシェフの姿勢は今でも印象に残っていて、飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍されている中で「自分達だけが良かったらいいというのは大間違いだ」ということを体現されていました。関わる人たちにスポットをあて、絶対にひとりも置いていかない。もっと大極を見ていて、みんなで全体の高みを目指そう。そんなふうに周りの人のこともちゃんと考えて活動している姿に感銘を受けました。

mp) 美際さんのお話は一人称ではなく「みんな」ですね。みんなでmigiwa flower を作り上げている。

M) 今のチーム作りやものづくりにも影響を受けているかもしれません。少しずつでも、働くみんながやりたいことをこの場で実現できるような環境にしたいと思っています。

(写真はチームのYukika さんが発見した新しいイギリスのテーブルウエアブランド。migiwa flowerで取り扱いをスタート予定 )

「もの」の先に関わる人の姿が見える、migiwa flower のものづくり

mp) そんな美際さんの大切にされているものについて、教えてください。

●パリで出会ったデザイナーと作ったワークドレス

M) パリで知り合った信頼のおけるデザイナーの方とのご縁で、初めて作ったのがこのワークドレスです。それまで、お花の仕入れで市場に行く時にはおしゃれして出かけるわけにもいかず、Tシャツ・ジーパンにエプロンが常でした。でも意外とエプロンって背中側や腕周りなどは隠れていなくって汚れてしまう。当時、エプロン以外に脱ぎ着きやすいものは無いかと洋服屋さんを探し回っていました。

mp) お花以外で初めて、「もの」を作られたのですね。こだわられたポイントはどんなところですか?

M) お花の仕事では腕まくりをするので、短めの袖丈に。ウエストから下はフレアにすることで、どんなお洋服を着ていてもサマになるように。ポケットの中に小さなポケットをもう一つ作ってもらって、大きな方には花切り鋏を、小さな方には鍵をいれられるように・・・。とデザイナーさんとパタンナーさんに想いを相談して形にしていただきました。

●どんなお花でもサマになる伊万里焼のオリジナルベース

M) 畑萬陶苑さんという、佐賀県の伊万里焼の窯元に作っていただいたフラワーベースです。パリで出会ったシェフを通じて畑萬陶苑さんの5代目の方とご縁があり、一緒にものづくりをはじめました。

M) 色んなサイズの花瓶を研究してみて、自分の中で黄金比を見つけました。小ぶりなのですが、実は大抵のおうちに持ち帰るようなブーケのサイズは綺麗に活けられて、一輪でも決まりやすくて飾りやすい。ブーケ作りと同じアイデアで、花瓶自体に結束のようなシェイプを作ることで、お花を入れるだけで誰でもサマになる。注ぎ口に一輪沿わせてあげると、凛とした佇まいで一本でも寂しくないんです。

mp) お花のプロならではの視点のものづくりですね。

M) 一番気をつけているのは、何も入ってなくても美しいこと。一個で何役にもなれたらいいなと、作家さんと試行錯誤して完成しました。職人の技術が素晴らしいので、水切れがよく、料理人の知人は、これにスープを入れて、レストランでお客様に注いでいると教えてくれました。

mp) 出会った方々の技術や才能と、美際さんの使い手ならではのアイデアがものづくりに活かされていますね。

M) 私、不便なことをストレスに感じるみたいで・・(笑)「なんでこれって◯◯なんだろう、もっと◯◯だったらいいのに・・・」といつも思っているんです。そこから色々なアイデアにつながっているのかもしれません。実は、お花を始めたきっかけも、秘書として働いていた時に、仕事でお花を贈るのに「いいお花屋さんがない」と思ったことだったんです。

自分のいる空間を、知り合いのもので埋めていきたい

●赤のお花の使い方に気づいた、Yuichiro Moriyama さんのアート

M) 自分のいる空間は知り合いのもので埋めたいという想いがあります。アトリエの壁も、床も、縁のある知人に作ってもらいました。

mp) このお花の絵も何かストーリーがあるのでしょうか。とっても素敵です!

M) Yuichiro Moriyama さんはパリで出会ったアーティストで、いつか自分の仕事場を持てるようになったら作品を購入したいなと思っていました。帰国後、機会を得て好きだったこのお花のアートを迎え入れることにしました。実はこの絵に出会うまで、真っ赤なお花ってあまり使わなかったんです。でもこの絵にもし赤のお花がなかったら・・・と思った時に、赤の使い方って分量によってすごく効いてくるんだなという気づきがありました。それから、この絵と同じように赤のお花を使うようになったんです。

mp) お花のスタイルにも変化を与えたアートだったのですね。

M) 人との関わりの中で、日々インスピレーションを得ています。 例えば、知り合いのシェフのお店でいただいた美しいお料理に添えられたソースの色からアイデアが浮かぶこともあります。

出会いやご縁を大切に、ジャンルやカテゴリを超えて一緒に形にしていく。お花のスタイルはもちろんのこと、美際さんのそんな生き方に共感するファンの方が多い理由なのではないかと思います。これからのmigiwa flower がどんな変化をしていくのか、私たちもますます楽しみです。

《profile》
Migiwa Akisada
フラワーデザイナー / 麻布十番 花屋 migiwa flower オーナー
Paris の花屋で修行を積み、2015 年よりTokyoで活動開始。 レストランや各種イベントの空間装花を手がける。その季節の旬のお花のみを取り扱う店舗では、販売の他にフラワーレッスンも開催。

Interview: mont et plume
text: Sayaka Yamamoto
photo: Ikumi Hane (2,4,6,7,8枚目)他 migiwa flower提供