陶芸には説得力がある
mont et plume (以下mp) どんなきっかけで陶芸を始められたのでしょうか?
Akari Karugane (以下A) 小さな頃から、テキスタイルデザインをしていた母や両親の影響で木工作家の展示やアトリエを訪れたりしていて、私も美大で勉強しようと思っていました。最初は環境デザインやインテリア・建築に興味があったのでその方向に進もうと考えていたのですが、高校2年生のときに美術の塾の先生に「工芸」を教えてもらい興味を持ちました。工芸の中でもいろんな素材を試してみた中で、自分が考えたイメージを自分自身の手で形にできる「土」という素材がしっくりきたので、陶芸の道へ進むことにしました。建築や家具を作る場合、デザインしてからまずプレゼンをして、作品が出来上がるまでに何度も説明をする必要がありますが、私は説明するのが得意な方ではないので、自分自身が作った実物を目の前に提示して説明できることが一番説得力がありました。その方法が、自分にとって陶芸でした。
mp) 故金さんの作品の中でも、今回制作いただいた壺は、さまざまな時代や国・文化を想像させられるような魅力があると感じています。影響を受けたものがあれば教えてください。
A) 以前、パナリ焼という、沖縄県で17世紀〜19世紀中頃まで作られていた焼き物に出会って感動したことがあります。当時すでに大学でうつわを作っていたのですが、この焼き物から土本来の美しさを感じて、土の魅力を活かしたいという意欲が湧きました。この時出会った壺のように、あたたかく、おおらかで、口は繊細でバランスも良い、そんな作品を作りたいと思ったことが影響しているかもしれません。
新しい場と、これからの挑戦
長い間シャッター街だった岐阜県多治見市・銀座商店街に、一店舗をリノベーションし、2021年8月にオープンしたシェアハウス兼工房の“at 01”が誕生しました。これから故金さんの新たな創作の場となる、出来たばかりの工房に伺いました。(取材は2021年10月)
mp) ”at 01”は工房を併設したシェアハウスということで、作家の工房なのに人が出入りして開かれた面白い場ですね。
A) 自身が よくふらりと立ち寄っていた山の花さんがこの工房件シェアハウスに携わっていらして、作家としてシェアアトリエに入らないかと声をかけてくださって。ゆくゆくは時間とお金をかけて自分のアトリエを持ちたいと思っているのですが、ここには自分だけでは作れないプラスαの環境があると思い、入居することにしました。at 01のプロジェクトに新町ビルディングを手がけた花山さんや建築家の方も携わっていて、いまは一店舗ですが、増えていくそうで楽しみです。
mp) 故金さんが今取り組まれていることについて教えていただきたいです。
A) 今は、壺と同じ手捻りという方法で、壁掛けを制作しています。きっかけは、制作途中にたまに割れてしまう壺について建築家の方との対話をしている中で、切り取ったようにフレームの中に額装したら、作品になるのではないか?というアイデアが生まれたことから。壺を作った時に出来る張りが一番綺麗だと思うので、最初は壺を作ってから半分に切り額装用にしようと考えましたが、勿体無くて切れなくて・・・そこから、今の形状の壁掛けを壺と同じ手捻りで一から作ることにしました。
mp) 割れた壺もアートになる。面白いアイデアですね。
A) 陶芸家で、壁掛け作品を作る人はたくさんいますが、絵画のような壁掛けという新しい形で完成させれば、また新しい見方を提示できてるのではと考えています。私は今壁掛けの作品を作ることに興味があるし、ヒビが入ってしまった壁掛けの作品も、額装したり、もしくはしなくても、自分で考えて新しいことに色々挑戦したら楽しいのかなと思っています。そして焼いた際に割れてしまった作品をどう捉えられるか、についても考えています。絵画と同じように、焼き物の価値の付けられ方も変われば面白いと思います。
mp) 新しい陶芸の価値を作っていきたいということですね。
A) 焼き物は、アートの世界でもクラフトアートという位置付けで、ファインアートに比べて市場でもなかなか価値が上がらないのが現状です。そんな状況を変えて、焼き物の価値を高めていきたいと周りの人たちと話す機会がありました。at 01の立ち上げの時に、建築家の方が額装してまた違う見せ方をすることでまた違う見せ方ができるのではないかと提案してくださりました。まだ販売はこれからですが、新しい陶芸の価値を作っていきたいと思っています。
《profile》
Akari Karugane 陶芸家
武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科陶磁器専攻卒業。現在、多治見市陶磁器意匠研究所在籍。
土の温かさや大らかさ、そして繊細な表情が自分を通して表現できたらという思いで、壺や器、土鍋を制作。
聞き手:mont et plume
Writing : Sayaka Yamamoto
Photo : Ikumi Hane