香りについて
mp) 今回初めてご自身の香り作りに取り組むにあたり、どんなことを考えて制作されたのですか?
K) 明るい木や、湿った木など、いつか木の匂いを中心にした香りのコレクションを作りたいなと考えていました。もともと、好きだなと思う香りがウッディノートと呼ばれる香調に分類されていることが多かったり、木の造形も好きなので、たまに人を見て木に喩えたりしていて、自分は木が好きなんだなということに気が付きました。子供の名前にも木編の漢字をつけたんですよ。(ちなみに旦那様を木に例えると、銀杏の木だそうです)
mp) 実際に香りを嗅いで、木の心地よさを感じられるような気がしました。
K) 今思えば、小さい頃にきのこ採りをしていたような森の中のイメージでした。父親は山が好きで、よくきのこや山菜をとりに連れて行ってくれました。そこにはちょっと湿った葉っぱが土に積もっていて、そこをふみふみ歩くと、時々光が入ってきて。少しきのこの匂いが感じられたり、湿った土や濃い緑の匂いがしたり。そういう雰囲気を目指して作りました。あたたかみがある香りになったかなと思います。
(大きなテーブルに香りの瓶を広げて調香する香織さん)
香りに魅せられた幼少時代
mp) 小さな頃から香りに興味があったのですか?
K) 匂いを嗅ぐのが好きな子供でした。目の前にあるもの、食べるもの、何でも匂いを嗅ぐので、親からは「犬みたいなこと、やめなさい」と咎められて、その行為が良くないことなんだと思っていました。だから、まさか香りに関する職業があると思い付かないまま大人になったんです。
mp) その時には今のご自身の姿は想像できなかったわけですね。
K) 中学生の時に、母の鏡台に隠れていたCHANELのCOCOという香水の香りを嗅いで、高揚した気分になりました。自分には素敵だけど使いにくいと感じたその香りに別の香りを混ぜてみたらどうなるのだろう?と好奇心が湧いて、こっそり母のCOCOに、自分でも買うことのできたオレンジのコロンを混ぜてみました。結果、全然良い香りにはならなくてうまくいかなかったのですが、はじめて香りを混ぜてみたときの発見は記憶に残っています。
(香織さんが香りやことばにインスピレーションを受けた書籍や、フランスの香り専門の雑誌など)
香りのキャリアのスタート
K) 学生時代はピアノで音大を目指していました。そんな中、高校3年生でフランス語と出会い、すっかり言葉に魅了されて、大学では語学の道へ。香りへの探究心も少しずつ膨らんでゆき、大学の卒業論文では「言葉と香り」をテーマに研究しました。
mp) はじめは香りではなく、音楽、そして語学を学ばれていたのですね!
K) 卒業後は日本で語学を活かした別の仕事に就き、夜間に香りの学校で学びました。ご縁があって東京の5つのスポットの香りを作ったのですが、その香りがパリのプレタポルテの会場で展示されました。
mp) 最初の香りがパリのプレタポルテで展示されるというのはすごいですね!いつからフランスへ移られたのですか?
K) 震災を機に、当時のパートナー(現在の旦那様)のいるフランスへ移り、ご縁があって自分が一番好きだったフレグランスのブランドFREDERIC MALLE(フレデリック・マル)での仕事に就くことができました。ここではカウンセラーとしてその人にあった香りを選ぶことで香りとの関わり方を学びました。
(「キャンドルは、心地よい香りがいい」と話す)
mp) (羽根)パリで当時働いていたブランドのアトリエで、デザイナーたちと香織さんが作られたキャンドルの香りを初めて嗅いたとき、香りが持つ強さが印象的で驚いたのを覚えています。
K) はい、ブランドの依頼でキャンドルの香りを制作したのですが、それがたまたま世界的なラグジュアリーブランドのバイヤーさんの目に留まり、全世界の店舗の香りとして使用してもらえることになりました。この経験は今でも自信につながっています。
mp) 二人とも香織さんの作る香りが大好きで、モンテプリュムの活動をスタートした当初から、香織さんに香りを作っていただきたいと思っていたので、今回 “Mélange”プロジェクトの作品第一弾として実現したことがとても嬉しいです。ぜひ多くの方に、実際にこの香りを体験していただけたらと思っています。
《profile》
Kaori Oishi
セントデザイナー/パフュームカウンセラー
東京外国語大学卒業。調香技術を学び渡仏。フレデリック・マルのパリ本店でカウンセラーとして勤務しながら、CristaSeyaのフレグランスキャンドルやPheetaのイメージフレグランス等オリジナルのにおいの調香、また香りに関するコラムを執筆。現在、東京にて活動。
聞き手:mont et plume
Writing / Photo : Sayaka Yamamoto