JOURNAL

【Interview】Fumiko Atsukawa Vol.1 陶芸家・厚川 文子さん 前編

やわらかな丸みや、あたたかい土の表情が魅力の厚川文子さんのうつわ。厚川文子さんにインスピレーションの源や、旅についてのお話を伺いました。

mont et plume(以下mp) :やわらかな丸みや、あたたかい土の表情が、厚川さんのうつわの魅力の一つだと感じています。

Fumiko Atsukawa(以下F) :風船を膨らませたときのように、内側の圧力で丸くなる形がすごく好きで。内側から押された力で膨らむ形がイメージにあります。ああいう丸って、なかなか外からの力ではできないんですよね。内側からぐーっと押したときにできる独特なハリのある丸っていうのに惹かれていて、そこをめがけている気がします。

mp 最初からそのようなイメージを目指して制作されていたのでしょうか?

F 卒業制作のときに自分が何を作りたいのかをすごく考えて、何かを受け止めるかたちや包み込むかたちを作りたいと思い、タイトルを「包(ほう)」にしました。うつわを「包」という言葉で考えた時に、食べ物などを物質的に受け止めるものという意味はもちろんですが、光や人の想いなんかも受け止められるような、柔らかくて大きい形というものを目指しています。今でもやはりそれが根っこにあると思います。

mp:現在の作品や考え方に影響を与えたエピソードがあれば教えてください。

F:この意味が自分の中で本当につながったのが、妊娠したときでした。お母さんのおなかはいろんなものを包み込んでいるんだなあと。もともと「この感覚は何だろう?」とぼんやり思っていたことの正体を確かめることができたという感覚で、合点がいきました。昔から土器が好きで、多治見市陶磁器意匠研究所(以下意匠研)でいろんなものを作ったり研究している時に、アフリカの土器は女の人しか作らないっていう資料を見たんです。その女の人たちが作る形っていうのが、ほんとうに丸くて、あまりに素敵で。「この丸は女の人にしかつくれない丸なのかな」という疑問を頭の片隅に持っていたんですよね。それが、自分が妊娠したときに、「やっぱりそうなんだ」と身をもって確認することができて、抱いていたイメージと繋がりました。

mp 厚川さんが作品に取り組む際の最初のインスピレーション源は何ですか?

F:私は「土感」が最初ですね。土が好きなので、学生時代はいろんな土を焼いてみるということばっかりしていました。片っ端から焼いてみた何百個というテストピースの中から、自分の好きなものを選び出して、それを何回も焼いて・・という作業の繰り返しです。

mp) 厚川さんが好きだと思うものや感覚は、その頃から変わっていませんか?

F)あんまり変わらないですね。好きなのは、ざらっとしているけれど粗粗しくなくて、すべすべだけど、そんなにつるっとしてないみたいな、手触りの良いテクスチャーです。手に馴染む感じでしょうか。そこから、それに合う形ってなんだろうなって妄想をふくらませます。

mp) 厚川さんの作品は、オブジェとしても佇まいに存在感があります。逆にうつわの作品ができるまで試行錯誤されたと伺ったのですが

F)実は最初は丸い大きな壺ばっかり作っていて、それを「うつわ」にするのに結構時間がかかりました。とにかくまずは「うつわ」にしてみるんですけど、壺と同じように作ったら、なんだかざらざらしているし使えない。どうやったらこれを使えるようになるかなと試行錯誤するんです。今でも、用途のない壺とかだと自分の好きという思いだけで思いっきり作れるので、割と楽しいです。「うつわ」になると制限が出てくるので、使いやすいかとか、サイズとか、用途とかいろいろ考え始めると、失敗も多いし時間がかかります。

mp) 今回のプロジェクトではオーバルのうつわを制作していただきます。朝ご飯のプレートや、多人数での食卓にといろんな用途で使えそうだなとどんどんイメージが湧く、私たちも大好きなお皿です。作品について、教えていただけますか?

F)元となるお皿があるのですが、試作で作った時に、釉薬がかかったつるつるしたお皿は、世の中にたくさんあるので私が作らなくてもいいかなと思ったんです。あえてざらっとした焼締で、でも備前焼みたいに茶色くてごつごつしているものではなくて、もう少しスムースなものがいいなと思い描いて作り始めました。でも最初はすごく使いにくくて・・・家でで使ってみてもすぐに沁みてしまうし、これはお皿としては欠陥だなと思っていました。そんな時、お取り扱いしてくださっているお店の方がそのお皿をすごく感じ良く使ってくださって。私が思っていなかったような使い方で、沁みた風合いを面白がってくださったんですね。もしかするとこれだけ人がいるのだから、何人かは受け入れてくれるのではと。じゃあもうすこし使いやすくしようと。

mp) なるほど。今の独特の質感が生まれるまでに試行錯誤と、厚川さんの視点に変化が生まれたのですね。

F)土はその色や質感が好きだったので、そこを変えずに研究しました。自分でも使ってみて、ようやく使いやすいと実感できるところまでたどり着きました。実は私、自分のうつわってあまり使わないんです。でもこのお皿とボウルに関してはずっと何年も使っていて、「けっこう使えるじゃん」って思っています(笑)。そして今回は、作ったことのないオーバル型に挑戦することにしました。石膏で型を作り、還元焼成という焼き方で制作しています。

mp) 作家自らが長く使われているうつわには、説得力がありますね。ほかの作品も同じように作られるのですか?

F)いえ、全然違うんです。ボウルやピッチャーは手びねりで作ります。型でつくるのは、お皿と鉢かな。作りたい形をイメージしたときに自分がより表現したいものに近いかということを考えて、時にはろくろも引きます。つくりたいイメージが先にあって、それに合わせて作り方を掛け合わせています。

(後編へ続く)

 

 

厚川 文子 / 陶芸家

Fumiko Atsukawa / potter

埼玉県出身。多治見市意匠研究所卒業後

岐阜県多治見市で作陶を続ける。